大学は出たけれど-白木屋百貨店
5か月ぶりの公演出演、無事に終わりました。ソーシャル・ディスタンスは保ちつつ、たくさんのご来場まことにありがとうございました!(弁士台の飛沫防止シールドに触れているように見えるかもしれませんが、触らないように撮影しました)
1929年、昭和4年封切りの小津安二郎監督『大学は出たけれど』について。公開時は70分の作品でしたが、昨日ご覧いただいたのは16分版です。撮影台本が残っていますので、クラシック映画ニュース(通称:豆プロ)のあらすじには失われたシーンを中心にご紹介しました。
残っているフィルムの中に、田中絹代さん演じる町子と、お母さんが東京見物に出かけるシーンがございます。撮影台本では「とある百貨店」となっています。『昭和・平成 家庭史年表』下川耿史著によりますと、昭和4年の欄には白木屋百貨店日本橋本店の話題が多く、私はここではないかと目星をつけました。白木屋百貨店というのは東急百貨店の前身です。白木屋について調べましたら、なんと本作のオープニングにうつっていることに気づきました!
白木屋日本橋と言えば昭和7年に日本初の高層建築物の火災があったことで有名です。なぜこの火災が語り継がれているかと言いますと、当時、女性が下着を身に着ける習慣がまだなかったために高層階から逃げるのを躊躇してしまったり、着物の裾を抑えるために片手を離して落下してしまうという、たいへん悲しい事故も重なり、女性の下着の着用が一気に進んだからなんです。
在りし日の白木屋百貨店日本橋本店がうつっているというのは本作にとって大きな見どころだと思いますが、研究されつくされた小津作品で、そのような資料を見つけたことがなく、不安になってマツダ映画社の松戸誠さんにお問合せさせていただきました。誠さんによりますと、確かに白木屋の映像が含まれているとのことで、なぜ資料で取り立てて言及されていないのかたいへん興味深い推察をしてくださりました。その仮説1・2は昨日の前説でお話した通り♪
残念ながら、白木屋の映像は私の大発見!ということでもなさそうですが、弁士は自分で台本を書きますので、白木屋もご案内しつつ、活弁しました。だいぶマニアックなので、昨日限りの台本になるかもしれません?!
終演後、山城秀之弁士より、井上章一著『パンツが見える。―羞恥心の現代史』にて、白木屋の火災がきっかけでの下着着用伝説が否定されているという情報をいただきました。私の前説を昨日初めて聞いたのに…山城弁士のアンテナのはり方がすごい!!このように我々弁士は日々、情報収集にも明け暮れております。
澤登翠先生、湯浅ジョウイチさん、皆々様と再会できてたいへん嬉しかったです。延期の都合で、8月24日(月)も無声映画鑑賞会に出演させていただきます。『大学は出たけれど』は9月6日(日)兵庫県たつの市「山崎バニラの活弁大絵巻 in 赤とんぼ」並びに11月14日(土)に品川区「山崎バニラの活弁大絵巻 in スクエア荏原」で大正琴弾き語りで披露いたします。
アイスキャンデー買いたいのに貧乏でお金がありません。500円貸して下さい。10日で1割(トイチ)ならいいって?それじゃあまるで氷菓子に高利貸しじゃん!。。。バニラさん無事終演お疲れさまでした。もうすぐやっと梅雨明け。暑い夏を熱い活弁で乗り切ろう!